どうしてこんなことに。
目の前で閃光が弾けているような錯覚と不規則に痛む頭と戦いながら、マニィは思考を巡らせた。
仕事が終わって、一息ついて。大使が部屋にやってきて、珍しくコーヒーを淹れると言い出して。それから、…それから?
「ん、むぅ。…はぁっ」
そこからの記憶がない。気付いたら既にこの状況だ。どうして。どうして。
理論的でないことは苦手だ、予測が出来ないから。1から10まで意味不明なこの状況の中で、兎に角この人の行動は理論的でも、理性的でもないということだけ理解できた。
勿論そんな理解に何の意味もないことは、マニィ自身分かっていたのだけれど。





■安眠とその方法







「あれ、マニィくん?キモチ良くない?」
「…た、…し…」
「ああ、そうだよね。まだ喋れないか」
じゃあ悪いんだけど、そのまま大人しくしててね。痛くしないから。
人懐っこい笑みに、優しげな口調。この状況下でいつもと変わらぬ口を利くダミアンが、マニィには信じられなかった。
何を、どうして。尋ねたいことはたくさん在るのだが、もどかしいことに口が回らない。それどころか、不用意に口を開けば喉の奥から迫り上げる嗚咽に似た悲鳴を零しかねない。身動きの取れない上に口まで回らないとなると、これはもう対処の仕様がない。苦肉の策として、マニィはこの場を黙って動かずやり過ごすことに決めたのだった。
そう、マニィの四肢の自由は奪われていた。手首は縛られた上椅子の背凭れにしっかり括り付けられていたし、足は開脚させられて、これまた椅子の足に一本ずつ縛られている。
加えて、その脚の間にダミアンが居座っているのだ。
それだけでも仰天したというのに、彼は子供のように床に尻を付け、その両手はマニィのスーツの下を寛げその中身を取り出していた。そしてさも当然の如くそれを口に含んでいて。マニィが意識を取り戻したのは調度この辺りだったろうか。勿論抵抗は試みたのだが、縛られている上に体が言うことを聞かない。じくじくとした頭痛と全身が痺れてでもいるような感覚には、全く嫌なことに覚えがあった。
(これは、薬だ)
裏の稼業を副業に持つと、自然そちらの方向にも造詣が深くなる。この手の薬はマニィも使ったことがあったし、効果を確かめるために己に使ってみたこともあった。その経験が告げている、「間違いない」と。
これは恐らく、即効性の痺薬だ。痙攣程度に体は動かせるものの、全く力は入れられない。這って動くことすら不可能だ。処方量を間違うと筋肉が馬鹿になる、そんな薬だった。
何故そんな薬をこの人が。何のために。目的は何だ。けれど考えようとする度、意識が持っていかれそうになる。
「ん、んく…ふぁ、」
ちゅ。ぐじゅ、ちゅぷ。まるでわざわざ音を立てて楽しんでいるようでもある。細められた目には恍惚の色が浮かび、口元は唾液に塗れ殊更に猥雑さを醸し出している。時折覗く赤い舌は蛭の如く蠢き、虐めるようにマニィの茎を這う。かと思えば喉の奥まで咥え込んで締め付け、音がするほどに吸い込んでみせる。その光景と与えられ続ける刺激に、思わず堪えていた声が漏れてしまう。
「…、っァ」
「んは、…そういう声は、出せるんだ?」
じゃあもっと聞かせてよ。そういって微笑んだ顔はあくまで無邪気そのもので、マニィは更に混乱する。何なのだ。何がしたい。けれどその思考も、丸ごとダミアンに飲み込まれてしまう。
一度口内から出し、今度は先端だけ含む。尖らせた舌で鈴口を執拗に突付かれて、その上指が袋にまで伸びてくる。やわやわと揉みしだく動きはあくまで優しくて、正直乱暴にされるよりも辛い。
「く…ン、あぁ、」
「ふふ。マニィくん、可愛いよ」
いい加減角度を持ってきたそれを咥えるのは辛かろうに、それでもダミアンは奥まで飲み込んでいる。顰められた眉は苦しい筈なのに、どうしてか少し嬉しそうにも見えた。そのまま唇を窄め、マニィの腿に手を突くと今度は顔ごと前後に動かし始めた。卑猥に響く水音と息苦しそうなダミアンの顔は、否が応にもマニィの理性を削いでいく。
「…あっ、あ、…っく!」
腰に走る鈍い痺れはやがて全身にまで行き渡り、一度大きく震わせた後、やがて耐え切れず吐き出してしまった。…咥えたままのダミアンの口内に、だ。直後ごくりと嚥下される音。
「ん。…ん、ふぅ」
じゅっ、と最後の一滴まで搾り取って、欲に濡れた唇は先端にキスを落とす。

「ご 馳 走 様。」

――そして相変わらずの笑顔を境に、マニィの記憶はぷつりと途切れた。



*



「…に、くん!マニィくん?!」
がくがくと脳震盪でも起こしそうなほど激しく前後に揺さぶられ、マニィは覚醒する。
「!大、使」
「良かったー!!目が覚めたんだねマニィくんっ!」
オーバーなリアクションに声量。いつもの彼だ、違いない。
「私は今まで、何を…」
「覚えてないの?!マニィくんてば、私とコーヒー飲みながら話してていきなり寝ちゃったんだよ?」
珈琲。確かに、その記憶はある。あるのだが…
「寝てるだけならそのままにしとこうかと思ったんだけど、マニィくん魘されてずっと起きないから…心配したよ、なんか病気の発作なのかもって」
「それは…ご心配を」
「いいから!もうマニィくん帰って寝たほうがいいよ。昨日も泊り込んだでしょ?駄目だよ休まなきゃ」
言われて時計を見ると、調度0時を回ったところだ。…確かに、疲労感が拭えない。体も節々痛む上に、頭痛が酷い。
「では、お言葉に甘えて帰らせていただきます」
「それがいいよ。私はもうちょっと片付けがあるから」
終わったら帰るよ。そう言った彼のこめかみ辺りに、ちらりと光るものがあった。す、とマニィの目が細まる。
部屋に戻るという彼をドアまで見送ると、気を遣わなくていいのにと苦笑された。
「それじゃあ、ちゃんと寝るんだよ?」
「心得ました。…それと大使」
汗が。こめかみのそれを指で拭ってやると、ダミアンの顔色が変わる。
「あ、ありがとう。それじゃあ…おやすみ」
乱暴に閉まるドアはまるで逃げてでもいるようだ。全く、大胆なのか臆病なのか。
「…今夜は良く眠れそうですよ」
アナタのお陰でね。
汗を拭ったはずの指は、そこに有るまじき苦味をマニィに伝えたのだった。




----------------------------------------------------------
Q.何が書きたかったんですか?
A. えろです。それ以外の何でもありません。

…だからいつも以上に稚拙なストーリー構成は無視して欲しいな!(いいわけじちょう
っていうかこれ、マニダミ?ダミマニ?